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魂のアクビ

健康・映画・ライフハック

【書評】「青が散る/宮本輝」死ぬまでにあと何度読むかなぁ

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今週のお題「プレゼントしたい本」

もう秋に移り変わろうとしていますが、秋の切なさに一層浸りたいならこの本をオススメします。

あらすじ

新設された新しい大学の一年生・椎名遼平がその4年間をテニスに奉げる話です。

浪人中に父親の会社が倒産しかけ、大学進学を一時諦めたのだが、事業が持ち直し進学する経済的余裕を持つ頃にはもう勉強から離れていて、名前を書けば誰でも受かるようなこの大学にしか進むことは出来なかった。

そのため、入学手続きのお金を納めるかどうか学生課の前で悩んでいた遼平の前に真っ赤なエナメルのコートを着た佐野夏子という少女と出会う。

夏子は誰もがひときわ目を引くような美しい少女だった。

この出会いは遼平の途方も無く長く続く恋の始まりでもあった。

 

感想

高校の途中までテニス部だった遼平は、190センチを越える巨体の金子という男に執拗に勧誘され、テニス部にしぶしぶ入部するのだが、新設の大学のためコート作りから始めます。

楽しいサークル活動のイメージとはほど遠いドカタ仕事が1ヶ月近く続きます。

遼平は経験者であるゆえ、自分が凡百のプレーヤーであることは理解しています。

しかし野心も無く学問をする気も無い。お金や地位も無い。

夏子という高嶺の花の女性に何を持って、他の男より抜きん出るか。

そして社会というもっと広い世界に放り出されたとき、その大いなるものにどう対峙していくか。

大した選手になれないのは承知だが、呆けたようにテニスに打ち込むことに決めたのだ。

金子は遼平の恋心に対し、ああいう美人には「大きな心で押しの一手や」とからかった。彼にとってテニスは般若心境のようなものだったかもしれない。

予備校の同級生で京大に入学した木田という男は、喫茶店で毎日司法試験の勉強をしていた。自分と彼は卒業する頃には途方も無い差がついてしまっているだろう。

ある日夏子は黄色いベンツの助手席に乗り登校してきた。車の男は市議会議員のボンボンの小金持ちだった。

学才も縁故も高級車もない、何も持たず何者でもない遼平は般若心境を読経するが如く、虚仮の一念でひたすらテニス漬けに日々を送る。

 

 

テニスに引き分けはない。勝者と敗者が自ずと決まる。だが強者と弱者がそのままそれとなるとは分からない。

貝谷浅海というニヒルでどこかいけ好かない奴が入部してきた、貝谷は高校テニスでもそこそこ実績を残した選手だった。そんな彼ですら1流のテニスプレーヤーにはなれないという。

「だから2流の上を目指すんや。2流の上は1流の下に勝つ。王道と覇道という言葉があるやろ。俺の目指すテニスは覇道や。」

それは遼平の中で恋や人生にも通ずる2つの分かれ道だった。

同学年のテニス部員はもう一人いた。安斎克己という高校テニス界の超一流プレイヤーであったが、遺伝性の精神病でテニスが出来なくなっていた。遼平たちと行動をともにするに連れて再度テニスをすることになった。

合宿中の貝谷と安斎がシングルスで練習試合をすることとなった。そして貝谷は安斎をフルセットの末破った。覇道が王道を凌駕したのだ。

 

・若者の特権

辰巳という老教授の授業を無断で複数回欠席してしまい、許しを得ようと教授室を訪れた遼平に老教授は言った。「こそこそ授業を休んで単位だけを取ろうとするな、そんな奴は大物になれん」「若者は自由でいなくちゃならないが、もう一つ潔癖でなければならない。自由と潔癖こそ若者の特権ではないか」遼平は教授の勧めたコーヒーを飲み干し、もう授業をサボらないと誓った。

社会に出て家族でも持てば、このように生きることは出来ないですよね。仕事のために家族のために泥を被ったり道化となったり、どうしても心のままに生きていくのは難しい。若者には自由にはぐれることが許される。それに対する誠実さが潔癖であるということだろうか。小利口で要領だけ良いような人間より、大学の長い時間で自分と誠実に向き合うことが不器用なりとも自分の血肉になるものかもしれない。

 

この老教授が病に倒れたとき、遼平は彼のために献血をするのだが、御礼の品に色紙を貰った。色紙には「王道」と書いてもらった。

 

青が散る

感想とあらすじがごっちゃになってしまい、自分の受けた感動を纏めるには筆力不足なのでこんな格好でまとめるのは残念だが、テニス以外にも色々な人物が出てくる。木田という秀才の勉強する喫茶店「白樺」にたむろし、漫然と時間を潰す応援団のバンカラたち。同学年の女子テニス部で2回生のときに結婚してアメリカに行ってしまった祐子。遼平たちが卒業間際に再会した祐子の遼平への隠されていた思い。ガリバーという名で人気シンガーになるもヤクザの情婦と恋仲になり逃げ惑う友人。自殺をした友人。夏子の父のパートナーで「人間は一番自分の命が大事」といい故郷に帰ったパティシエ・ペール。

近づきそうで結局恋人には至れない遼平の恋と突然の失恋。

そして卒業式の後夏子との対話はとても切ない。

文庫本2冊ぐらいの分量なので彼らと4年間をともに過ごしたような気分になれます。

入学時の軽躁状態から、卒業時の黄昏のような寂しさに、時間が失わせたもの変わらせたもの、遼平の中で変わらなかったものなど、読後感はほの悲しくも心地よいです。

僕は一生この本を繰り返し読むつもりです。